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東京高等裁判所 平成4年(ネ)3668号 判決 1993年5月26日

控訴人(原告)

北原洋

ほか二名

被控訴人(被告)

吉田豊治

主文

一  原判決中、控訴人北原洋に関する部分を次のとおり変更する。

1  被控訴人は控訴人北原洋に対し、金一億五五五七万九四六八円及びこれに対する昭和六二年一一月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人北原洋のその余の請求を棄却する。

二  控訴人北原浩一及び同北原八重子の本件控訴をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、被控訴人と控訴人北原洋との関係では、第一、二審を通じこれを一一分し、その三を同控訴人の、その余を被控訴人の各負担とし、被控訴人と控訴人北原浩一及び同北原八重子との関係では、被控訴人について生じた訴訟費用を二分し、その一を同控訴人らの負担とし、その余を各自の負担とする。

四  この判決中一項1については仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人北原洋(以下「控訴人洋」という。)に対し金七一五一万二三九〇円、控訴人北原浩一(以下「控訴人浩一」という。)に対し金三三〇万円、控訴人北原八重子(以下「控訴人八重子」という。)に対し金二二二万二〇七一円及び右各金員に対する昭和六二年一一月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行の宣言

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二当事者の主張

当事者の主張は、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

第三証拠

証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所の判断は、次のとおり訂正するほかは原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決三枚目裏三行目の「時速約一八キロメートル」を「時速約一五ないし一八キロメートル」と改め、同八行目から同四枚目表八行目までを次のとおり改める。

「証拠(甲第三一号証の三及び四、乙第四、第五、第七、第八、第一二、第一四及び第一九号証、被控訴人本人尋問の結果)によれば、次の事実が認められる。

1 本件事故現場付近の道路の状況は別紙図面のとおりである。加害車両と控訴人洋とが衝突したのは<×>付近であり、加害車両は<5>の地点で停車した。加害車両の左前輪のスリツプ痕は一・七メートル、右前輪及び後輪のそれは一・一メートルである。控訴人洋は右衝突により、加害車両の左前方に約七メートル撥ね飛ばされた。

2  被控訴人の供述や右スリツプ痕の長さからみて、被控訴人は加害車両を時速一五ないし一八キロメートルで運転していたものと推認される。そして、一般に危険を感じて急ブレーキをかけ、それが効き始めるまでの時間(空走時間)は平均して〇・五秒程度を要するから、本件においては、被控訴人が控訴人洋に気付いて危険を感じたのは、左前輪のスリツプ痕の始点から手前約二ないし二・五メートルの地点と認められ、加害車両の長さ約四・六メートルであることから考えると、加害車両が横断歩道の直前に差し掛かつた地点と認めるのが相当である。

3  控訴人洋の自転車の速度は的確な資料がなく確定しがたいが、乙第七及び第八号証の成澤光彦や下村盛章の「自転車はかなり速く走つてきた。」旨の供述からすると、自転車の通常の走行速度を上廻る速度で横断歩道上を進行していたものと認められる。

以上の事実を総合すると、被控訴人は加害車両を運転して交差点を右折し、横断歩道を通過しようとしたのであるから、このような場合、自動車運転者としては前方左右を注視して、横断者あるいは横断しようとする者を発見したときはその動静を確認しながら一時停止するか徐行して進行すべき注意義務があつたのに、安全を確認せず、かつ、前記速度で進行したため、控訴人洋が自転車で右横断歩道に入つてきたのに気付かず、加害車両が横断歩道に差し掛かつた時点で控訴人洋が横断歩道上を進行してくるのに気付き急ブレーキをかけたが及ばず衝突したものと認められ、被控訴人に過失があつたこと明らかである。

2  同五枚目表八行目の「金一一五万四四〇〇円」を「金一一四万六〇〇〇円」と、同一一行目の「九六二日間」を「九五五日間」と、同裏三行目の「金一一五万四四〇〇円」を「金一一四万六〇〇〇円」と、同五行目の「金一七五万九五〇〇円」を「金一七三万七〇〇〇円」と、同八行目の「三九一日間」を「三八六日間」と、同一一行目の「金一七五万九五〇〇円」を「金一七三万七〇〇〇円」とそれぞれ改める。

3  原判決六枚目表一〇行目の「であることが認められ」の次に「(なお、職業的介護人の場合は、その勤務時間中拘束されて介護に専念する義務があるが、近親者の介護の場合にはこのような事情や必要性はないから、後者の介護料を定める場合に、労働者の最低賃金を基準にすべきものとは考えられない。)」を加える。

4  同七枚目表一〇行目から一一行目にかけての「金四八二一万四六五六円」を「金七〇九三万七三三九円」と改める。

5  同八枚目裏八行目「原告洋の介護」から同一〇枚目表四行目までを次のとおり改める。

介護人は主としてパートタイムの主婦であり、一〇時間を連続で勤務することは困難であるから、実際には一日五時間ずつ二人の交代を要すること、そのため要する費用は、介護加算料金を含め一日一万六八〇〇円となることがいずれも認められ、また近親者の介護料は一日四五〇〇円とするのが相当である。

<5> そうすると、控訴人洋の平成四年四月一日以降の将来の介護料は、ライプニツツ方式により年五分の割合による中間利息を控除すると、次のとおり七〇九三万七三三九円となる。

〔平成七年四月から平成二一年三月末まで〕

年間職業的介護人の介護料

一万六八〇〇円×二四〇=四三万二〇〇〇円

年間近親者の介護料

四五〇〇円×一二五=五六万二五〇〇円

合計 四五九万四五〇〇円

平成七年四月から平成二一年三月末までの期間の介護料

四五九万四五〇〇円×(一一・二七四-二・七二三)=三九二八万七五六九円

〔平成二一年四月から平成三一年三月末まで〕

年間近親者の介護料

四五〇〇円×三六五=一六四万二五〇〇円

平成二一年四月から平成三一年三月末までの期間の介護料

一六四万二五〇〇円×(一四・六四三-一一・二七四)=五五三万三五八二円

〔平成三一年四月から平成六三年九月末まで〕

年間職業的介護人の介護料

一万六八〇〇円×三六五=六一三万二〇〇〇円

平成三一年四月から平成六三年九月末までの期間の介護料

六一三万二〇〇〇円×【(一八・九二九-一八・八七五)÷一二×六+一八・八七五-一四・六四三】=二六一一万六一八八円

〔平成七年四月から平成六三年九月末までの介護料合計〕

三九二八万七五六九円+五五三万三五八二円+二六一一万六一八八円=七〇九三万七三三九円」

6  同一四枚目表三行目から同裏六行目の「可能性があつたと認められること、」までを、「前記認定のとおり、控訴人洋が自転車で本件横断歩道に侵入しようとした際には、加害車両も本件横断歩道に接近し、横断歩道に進入しようとしていたのであるから、同控訴人も加害車両の動静に注意し、一時停止するとか減速するなどして事故の発生を防止すべきであったこと、」と改める。

7  同一五枚目表七行目から同枚目裏二行目の「五一五万六八六四円」までを次のとおり改める。

「以上によれば、控訴人らの本訴請求は、控訴人洋については、前記第三の四の1(1)ないし(10)の損害額の合計一億六七三一万〇五二一円に一〇パーセントの過失相殺をした後の一億五〇五七万九四六八円に、(11)ないし(13)の慰謝料及び弁護士費用を加えた額の合計一億八〇五七万九四六八円から同控訴人が自動車損害賠償責任保険により受領した二五〇〇万円(甲第三号証)を控除した一億五五五七万九四六八円」

8  同一六枚目表二行目から六行目までを削除する。

二  よって、原判決中控訴人洋に関する部分を主文のとおり変更し、控訴人浩一及び同八重子の本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 川上正俊 谷澤忠弘 今泉秀和)

別紙 <省略>

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